障壁画プロジェクトの作品について
障壁画は平安時代の寝殿造や室町時代の書院造とともに発展し、安土桃山時代以降、城郭建築や寺院建築にも用いられました。当初、襖は部屋を仕切るためのものでしたが、その後、権威を象徴する豪壮華麗な障壁画や、客人を迎える書院を飾るための美しい障壁画が描かれるようになりました。 また、滞在に対する感謝のしるしとして寺院等に障壁画を描いた絵師もいます。障壁画は生活を営む建造物の室内空間を場として成立してきたといえます。 また、障壁画の中には重要な美術品として扱われ、ニューヨークのメトロポリタン美術館やワシントンD.C.のスミソニアン国立アジア美術館など海外の著名な美術館に収蔵されているものもあります。
障壁画プロジェクトでは、こうした歴史上のエピソード等をもとに「温故知新」と「もてなしの空間の創出」を試みました。
障壁画プロジェクトの集大成として制作された屏風絵と襖絵は、2024年2月28日~3月14日にたけはら町並み保存地区で開催された「障壁画プロジェクト完成披露展」でお披露目されたのち、2024年3月に瀬戸内海エコツーリズム協議会から竹原市に寄附されました。
以降は同市産業振興課により、ゴールデンウィークに開催される「海でつながるアートウォーク」や10月下旬の「憧憬の路」において障壁画プロジェクトの作品展示が行われています。
竹原の自然や文化に着想を得て3名のアーティストが制作したアート作品は、 過去と現在を繋ぎ、 空間を活きづかせ、歴史的建造物に新たな息吹を吹き込んでいます。
(参考)旺文社日本史事典 三訂版、デジタル大辞泉、山川 日本史小辞典 改訂新版、
世界大百科事典 第2版
竹原波涛図 Takehara Waves
有田大貴 Taiki Arita
屏風に水彩、アクリル、箔、酒の仕込み水、たけはらの塩、竹炭、樹脂、拾得物
2024年制作
この作品は、竹原市が面する瀬戸内海の「波」がテーマである。
竹原が海の恩恵によって製塩業や廻船業などで栄えた歴史を背景に、現代の竹原の海の姿や人間との関係を視覚と聴覚を通して探求した。
屏風絵は、竹原市の東から西までの瀬戸内海沿岸4ヶ所(忠海床浦、忠海長浜、竹原長的場、吉名町)で下絵を制作。日の出から日没までの時間を4つに分け、時間帯による海の変化を捉えた。画材には、竹原を象徴する素材(たけはらの塩、酒の仕込み水、竹炭)を取り入れ、絵筆には、竹筆や海岸で拾得した貝殻やプラスチック片などを用いた。
屏風下には、各浜辺で拾った貝殻、流木、シーグラス、海洋プラスチックなどを樹脂で硬化させ、自身の排出したゴミであるプラスチック容器で型取ったオブジェを設置した。また、浜辺の波打ち際を端から端まで素足で歩いた音、竹の葉による波の擬音を作品にあわせて流した。
有田大貴 Official Website
竹原神明図 Takehara Guardian Deities
大平由香理 Yukari Ohira
和紙に顔料、箔、竹原の塩
2024年制作
滞在制作が始まった2024年1月中旬頃に竹原市内の各地で始まった「神明祭(しんめいさい)」に想を得て本作を制作した。神明祭は竹原市内各地で旧正月ごろに催される火祭りで、五穀豊穣、家内安全、無病息災等を祈願するもの。竹や松の木の骨組みが色紙やワラで華やかに飾り付けられる「神明さん」は、集会や自治会、学校行事等で毎年作られている。地区や年によって装飾は異なり、それぞれがオリジナルの神明となっている。祭りは代々受け継がれ、神明は親しみをこめて「神明さん」と呼ばれることもしばしばである。突如町中に現れ、大きくそびえたち、手の込んだ神明が一瞬のうちに消え去ってしまう。神明さんはまるで土地を守る守り神のように感じられた。
神明に守られたこの町には、受け継がれてきた文化と景色がある。海山の自然、そこから塩づくりで栄えた歴史、町のどこからでも望むことができ町を象徴する建築の普明閣、歴史ある町並み等、様々な時間軸がまるで地層のように折り重なったような町を幽玄な時の流れを感じながら歩いてみてほしい、という願いを込め、本作を制作した。
大平由香理 Official Website
祝福の小径 The Blessing Road
松本 和子 Kazuko Matsumoto
板屏風に漆喰・顔料、ブオンフレスコ技法
2024年制作
日本ではあまり馴染みのない技法であるが、西洋では古くから「永遠の絵画」と呼ばれるフレスコ画により作品を制作した。フレスコ画は教会や城の壁に祈りや願いの対象が描かれてきたという画法である。
今回の滞在制作では、竹原の川や寺、竹林などが、当方の在住する京都の景色と繋がっているような感覚を覚えた。その中でも、旧松阪家住宅にある古い窓ガラスが印象に残った。摺りガラス越しに届く瀬戸内の明るい光を昔の塩作りに関わる人達も感じたのだろうか、と思いを馳せ、本作を制作した次第である。ガラスの模様の鳥の羽根や波のようにも見える部分が「祝福」を想起させること、かつて北前船が加茂川を通り、瀬戸内海を経て他の地域に塩を届けた「道」は自分の子の所へも繋がっているかもしれない、と想像を膨らませたことから、本作品を「祝福の小径」と名付けた。書画や儒学に造詣が深い当時の松阪家当主に、この一風変わったフレスコ画の屏風を見てもらうことができたなら、幸いである。
松本和子 Official Website
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